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東京高等裁判所 昭和44年(う)1401号 判決 1969年12月17日

主文

原判決を棄却する。

被告人を死刑に処する。

押収にかかる郵便貯金払いもどし金受領証一枚(当庁昭和四四年押第三五八号の一七)中の偽造部分は、これを没収する。

押収にかかる郵便貯金通帳一冊及び定額郵便貯金証書三通(そのカバーを含む。)(前同押号の一二ないし一六)は、いずれもこれを被害者石郷岡孝三に還付する。

理由

所論はいずれも原判決の事実誤認を縷述するところ、弁護人の論旨の要点は、被告人としては、原判示のように、被害者石郷岡則子を訪問後、「話の糸口も無くなり内心苦慮した挙句、……ふと、被告人にお茶を出したりしながら台所仕事をしている同女(則子)を殺害して金員を強取し、結納金を調達しようと考えたが、……決心がつかず」とか、則子の『主人の居ないところへあまり来てもらいたくない』との言葉を耳にし、「……一時に憤激し、それまで迷いに迷っていた決断が一瞬にしてまとまり、とつさに同女を殺害して金員を強取しようと決意し」たなどという金員強取の目的はなかつたのであり、そして、殺害直後の現金、郵便貯金通帳等の窃取行為は、殺してしまつた以上何をしても同じだ、盗んでも誰にも見つかりはしないというようないわば捨鉢な気持から出た行為であつて、必ずしも則子らに対する殺害が金員奪取の目的に出たことを表象するものではなく、結局本件犯行は被告人の激情的性格から、衝動的、反射的に行なわれた単純な殺人行為であり、しかも殺意の生じた時期については、原判示のように則子の言葉に憤激した際ではなく、その言葉に憤激した被告人が同女の顔面を殴りつけた際、同女が被告人の腰にしがみついてきたその瞬間であるというに帰し、つぎに被告人の論旨の要点は、弁護人同様、原判示のような金員強取の目的はなかつたという外、殺害行為についても殺意はなく、夢中で則子らの首をしめたりしたものであるというに帰する。しかしながら、被告人の各検察官調書によれば、被告人に原判示のような金員強取の目的及び殺意のあつたこと並びに殺意の生じた時期が、原判示のように則子の言葉に憤激した際であることがいずれも明らかに認められるばかりでなく、被告人の現金、郵便貯金通帳等の奪取行為そのものが、原判示のように強盗の手段として則子らに対する殺害行為が行なわれたことを表象していることも明らかに看取されるのであつて、被告人主張のように殺意なくして夢中で則子らの首をしめたりしたのであるなどといえないのはもちろん、弁護人主張のように単純な殺人行為であるなどともいえない。各論旨にそうような被告人の原審、当審各公判供述は、前記各証拠に対比してたやすく信用できない。その他弁護人は、当時被告人としては、殺害までして梅沢八重子との結納金八万円を調達する必要はなかつたのであり、右結納金額は減らそうと思えばいつでも容易に減らし得た金額であつたこと、被告人は本件犯行当日の朝結納金の不足に気付いたとき、一瞬「しまつた」と感じたであろうが、原判示のように、「はたと当惑し、どうしたらよいかと思案に余るうち、ふと石郷岡則子のことを思い出した」などと結納金のことを深刻に考えたことはないこと、並びに被告人としては、則子に相談かたがた金借できたらと考えて同女を訪問したものの、結局金借の話のきつかけがつかめなかつたので、金借を全く断念したことなどの諸点を具体的に挙げ、被告人に金員強取の目的がなかつた所以を強調する。しかしながら、被告人の前記検察官調書の外、婚約者梅沢八重子及び同女側の仲人金剛寺金蔵の各捜査官調書及び被告人側の仲人本山晃の原審証人尋問調書等を総合すれば、被告人はかねてより八重子と結納金は八万円にしようと話合つており、又本山に対しても結納金は八万円位揃えなければ相手にすまないと言っていたこと、被告人としては、犯行当日の午後六時頃までに本山とともに結納金八万円を金剛寺方に届けるつもりであつたこと並びに当日朝結納金の不足に気付いた被告人は、原判示のように何とかして不足分を調達したいと焦慮した末、その金策のため則子を訪ね、その後も結納金のことが脳裡を離れず、犯行時に至るまで依然として焦慮を続けていたことなどがいずれも認められ、これらの事実に徴すれば、所論のように、被告人としては殺害までして結納金を調達する必要がなかつたとは直ちに断じがたく、又右八万円がいつでも容易に減らし得た金額であつたとも直ちに断じがたい。

その他各所論に徴し、記録を精査、検討しても、原判決の事実認定には、判決に影響を及ぼすことの明らかな誤認は存在しない。

以上のとおり、論旨はすべて理由がない。

弁護人の控訴趣意第二の論旨について。

所論は原判決の法令適用の誤を主張するけれども、その具体的内容は、原判決は弁護人の被告人が本件犯行当時心神耗弱の状態にあつたとの主張を排斥したが、被告人は当時心神耗弱の状態にあつたのであるから、原判決は刑減軽の原由たる事実を誤認したものであり、しかもこの誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるというにある。

よつて記録を調査して審案するのに、原判決が(弁護人の主張に対する判断)の項において、被告人の当時の精神状態につき、是非弁別能力に支障をきたしたものとは認められないとした判断には過誤があるとは認められず、当審における事実取調の結果をもつてしても、右の判断に消長を及ぼすものではない。

所論は、被告人の本件犯行は通常人の理解を越えた異常性を有し、被告人の家庭環境、犯行の動機と残忍性、犯行後の状況と原審公判廷における供述態度等を総合すれば、被告人の精神分裂症的徴表を認識し得るのみならず、原判決が心神耗弱を否定する根拠とした竹山恒寿作成の鑑定書自体にも法律上被告人の心神耗弱を認定し得る事実が存すると主張する。

なるほど、論旨のいうように被告人の家庭環境として、末弟国男(昭和一六年八月生)が二一才頃から典型的な精神分裂病を発し現在精神病院に入院治療中であることは記録上明らかであり、竹山鑑定書によれば、所論指摘のように国男の精神病は破瓜型に該当し、この種の精神病は同胞に12.6パーセントの割合で出現し、又精神病とまでいえない分裂病質の同胞発現率は9.4パーセントといわれていることが認められ、被告人が精神病質的環境にあつたことは否定しがたいとしても、竹山鑑定書は右のような家庭環境を十分考慮に入れたうえ、結論として、原判示のように被告人は本件犯行当時是非弁別能力に支障なかつた旨判断していることが明らかである。又論旨は、本件犯行の動機と残忍性について、犯行は矛盾に満ちたものであり、則子らを殺害する理由が見当らないばかりでなく、その態様は執拗で残忍、徹底的であり、正常な判断力を喪失した精神異常者の犯行としか考えられないものであるという。しかし、すでに説明したとおり本件犯行の動機は、被告人が結納金の不足分の調達に苦慮したことにあり、その結果強盗殺人の犯行を犯したばかりか、現金、郵便貯金通帳等を強取し、該通帳により貯金の払戻しを受けたというのであつて、これらの犯行には首尾一貫性に欠けるものはなく、所論のように矛盾に満ちたものであるとか、殺害の理由がないなどといえないことは明白であり、又犯行の態様が執拗で残忍、徹底的であることは所論指摘のとおりであるが、それは記録によれば、前記竹山鑑定書もいうとおり、相手に対し徹底的な攻撃を加えてゆくという被告人の分裂病質的な性格面に由来する激情の然らしめたところであつて、則子から前記のように『主人の居ないところへ云々』と言われたことが被告人にとつて自己毀損的刺激となり、飛躍的に激高がおこつたため、目的ある行為としては手段が残忍、徹底にすぎたというだけのことであり、特別な精神障害を意味するものではないと解されるのである。従つて、本件犯行が所論のように精神異常者の犯行としか考えられないとはいえない。そして、被告人が則子らを殺害した後、前記のように郵便貯金の払戻しを受けたのみならず、該払戻しを受けた金員を結納金の不足分に充当し、自己の意図したとおり結納金八万円を仲人に届けた事実等、犯行後のすべての状況は、むしろ被告人の性格に基づく大胆・非情・自己中心的な態度を露呈したものと認められこそすれ、所論のように被告人の精神分裂症的徴表を示すものであるなどとはとうていいえない。さらに論旨は、被告人の原審公判廷の供述内容に現われた態度は、被告人の性格異常を雄弁に物語つていると主張し、その供述内容を具体的に挙げる。しかし、論旨の挙げる供述内容は、これを仔細に検討すると、むしろ被告人が性格異常を装わんがため意識的に作偽して異常な供述をしているのではないかとの疑問すら感ぜしめるものであつて、この点に関する被告人の当審公判廷の弁明によつても右の疑問を解消するに至らず、従つて、前記供述内容をもつて、所論のように被告人の正邪を解しない白痴的な知能を示すものであるとは認めがたい。以上説明したとおり、論旨の挙げる被告人の家庭環境、本件犯行の動機と残忍性、犯行後の状況と原審公判廷の供述態度等を総合しても、所論のように被告人の本件犯行が通常人の理解を越えた異常性を有し、心神耗弱者の行為であるとは認めがたく、しかも、竹山鑑定書の記載全体を仔細に再検討しても、所論のように法律上被告人の心神耗弱を認定し得る諸事実が存するとは認めがたい(なお被告人も論旨中において、本件犯行当時、乱心していたとか、気持が真空状態になつていたなどと、あたかも心神耗弱の状態にあつたかのようにいうけれども、その理由のないことについては、弁護人の論旨に対する判断において説明したとおりである。)。論旨もまた採用の限りでない。

被告人の控訴趣意中、量刑不当の論旨について。

本件犯行は、原判決も(量刑の事情)の項において詳細に摘示したとおり、その動機、原因、手段、態様、被害結果の重大性等のいずれの面から考察しても、全く酌量の余地のない兇悪かつ残忍な所業であるというの外はない。とくに、その殺害方法は、被害者らを窒息死させたのみならず、庖丁で首を切り、ガスを放出させるなど、執拗かつ徹底した手段を弄しており、惨虐この上なく、さらには、石郷岡則子の首を締めつけた後、側にいた僅か一歳の嬰児恵美が大声で泣き出すや、犯行の露見をおそれて同女をも殺害するに至つては、そこには一片の人間性すら認められず、全く鬼畜の行為であるといわれても致し方ないところであろう。しかも、本件犯行が附近居住者を恐怖におとし入れたその社会的不安ないし衝撃が甚大であつたろうことは容易に推察し得るところであり、以上の諸点を総合勘案すれば、被告人の罪責はまことに重大であるといわざるを得ない。

しかしながら、死刑は国権によつて犯人の生命を剥奪する極刑であり、回復すべからざる刑であるという重大なる意義を有する点にかんがみ、当裁判所としても、前記諸般の犯情を重視する一方、原判決が指摘した被告人に有利な諸般の情状、さらには所論指摘の被告人に利益な諸事情、はた又当審における事実取調の結果によつて認められるところの、原判決後における被告人の反省、悔悟の事実等、被告人のため参酌すべき情状をすべて考慮に入れ、再三にわたりあらゆる角度から熟考してみたのであるが、原判決の量定した極刑はまことにやむを得ないところであつて、これを軽きに変更すべき事由はないとの結論に到達せざるを得なかつたのである。

以上の次第で、論旨もまた理由がない。

よつてつぎに職権をもつて、原判決の法令の適用の当否につき調査するのに、原判決は、押収にかかる一万円札八枚計八万円(当庁昭和四四年押第三五八号の八)中金四万円を被害者石郷岡孝三(石郷岡則子の夫)に還付すべき理由が明らかであるとして、主文第三項において、これを被害者石郷岡孝三に還付する旨言い渡したものであるが、記録によれば、被告人は本件強盗殺人の犯行により強取した郵便貯金通帳により預入れ金額中四万九、九〇〇円の払戻しを受けたのであるが、現実には、郵便局係員の申出により被告人が同係員に自己の一〇〇円を交付し、引換えに一万円札五枚計五万円の払戻しを受けたこと、被告人は右一万円札五枚を自己の所持金五万数千円に混入し、その中から一万円札八枚を、仲人を通じ結納金及び樽代として婚約者梅沢八重子の両親梅沢仁三郎、同あさの両名に贈つたこと、梅沢仁三郎らは右八万円中に、被告人が強取した貯金通帳より払戻しを受けた金員の一部が混入していることは全然知らなかつたこと並びに押収にかかる八万円は、右梅沢仁三郎らが受領した八万円をそのまま任意提出したものであることなどがいずれも認められる。ところで、刑訴法三四七条一項にいわゆる「被害者に還付すべき理由が明らかなもの」とは、被害者が私法上その物の返還を請求する権利を有することの明らかなものをいうと解すべきところ、前記のような郵便貯金通帳の強取に始まり梅沢仁三郎らが八万円を取得するに至るまでの経緯に徴し、かつ又それが一旦授受された場合には、そのもの自体の返還請求については法律上種々の困難が考えられるところの現金であること等に徴すれば、原判決が被害者石郷岡孝三に還付すべきものとした四万円については、本件強盗殺人罪の賍物で同被害者に還付すべき理由が明らかであるとするには疑問がある。さすれば、原判決が押収にかかる八万円中四万円を右被害者に還付する旨の言渡をなしたのは失当であつて、原判決はこの点において結局刑訴法三四七条一項の解釈、適用を誤つたものというべく、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。(栗本一夫 石田一郎 藤井一雄)

【参照】 原審判決の主文ならびに理由

主文

被告人を死刑に処する。

押収にかかる郵便貯金払い戻し金受領証(昭和四二年押第三七五号の一七)中偽造部分はこれを没収する。

押収にかかる現金八万円(前同号の八)中金四万円及び郵便貯金通帳一冊、定額郵便貯金証書三通(そのカパーを含む)(前同号の一二ないし一六)はいずれもこれを被害者石郷岡孝三に還付する。

理由

(事実)

一、本件犯行に至るまでの経緯

被告人は、郷里の中学校を卒業後、上浜し昭和三二年暮頃横浜市神奈川区新子安所在の京浜工機工業所に就職し、機械工として働くようになり、昭和三七年暮同会社より南ベトナムのダラトに派遣され、タニムダム発電所のグム建設工事に従事するに至つたが、同三八年一〇月ころ、病気のため現地診療所に通ううち、同所看護婦石郷岡則子(当時小川姓)と識合いとなつた。その後同女は、ダム工事現場の機械工石郷岡孝三と識合い恋仲となつて、同三九年末ころ両人とも被告人と相前後して帰国し、翌四〇年一月横浜市内で結婚式を挙げ被告人も友人としてこれに列席しその門出を祝つた。ところで被告人は、同年六月東京都港区所在の東京電気工務所に移り機械工として働くうち、同四一年八月千葉県野田市西三ヶ尾所在東京変電所の補修工事に従事していた折、同工事現場附近の会社で工員をしていた梅沢八重子(当二二才)と交際を重ねるうち、程なく将来を約し同四二年一月婚約し、挙式の日取りなど結婚の具体的準備を着々と整えていたところ、同年三月一二日結納金八万円を、同月一四日午後六時ころ仲人の金剛寺方へ持参することになつた。そこで翌一三日午後五時ころ、仕事を終えてから一旦前記工事現場の宿舎に引き揚げ、翌日の結納取交わしに備えて身だしなみをとゝのえるため、結納準備金、小遣等合わせて八万三千円位を持参して、右宿舎を後にし肩書住居地記載の保土ヶ谷寮に向かい、同日午後七時ころ保土ヶ谷駅に着いたのであるが、生来の酒好きから、ほんの一杯のつもりで同駅前商店街の飲食店に立ち寄り飲酒しているうち次々と横浜市内の飲食街を飲み歩いた末右保土ヶ谷寮に帰つたが、翌朝午前八時ころになり目を覚まし、はじめて所持金が五万五、六千円位にまで減つていることに気付いてはたと当惑し、どうしたらよいかと思案に余るうち、ふと前記石郷岡則子(当二五オ)のことを思い出し同女が、夫孝三のマレーシヤへの出張中、同アパートで長女恵美(当一才)と共に留守を守つており、被告人も以前二回程結婚準備の相談がてら同アパートを訪れ歓待されたことがあつたので、同女より金借し結納金を調達しようと考えて同日午前一〇時過ぎころ横浜市戸塚区瀬谷町二四四八目地飛田荘アパート二階の石郷岡孝三の留守宅を訪問することにした。

二、犯罪事実

被告人は、

(一) 金借のため右石郷岡則子方を訪ねたものの、話の切り出しに困まり、それとなく主人孝三の給料の話などを持ち出して反応を打診してみたが巧くゆかずやむなく新聞を手にしたりテレビを見たりなどして焦躁の時を過すうち、話の糸口も無くなり内心苦慮した挙句、正午ころになり、ふと、被告人にお茶を出したりしながう台所仕事をしている同女を殺害して金員を強取し結納金を調達しようと考えたが、同夫妻とは余りにも親しい間柄だけに決心がつかず、そのうち午後一時ころになつて、話の種も尽き、やむなく金策を断念して帰ることにし玄関口で靴をはこうとして靴を拭くため同女にふき物を求めたところ、玄関口横の物置の前にいた同女がさりげなく「主人の居ない所へ余り来て貰いたくない」とつぶやいたのを聞くや、一時に憤激し、それまで迷いに迷つていた決断が一瞬にしてまとまり、とつさに同女を殺害して金員を強取しようと決意し、やにわに手拳で同女の顔面を殴りつけたところ、これに驚いて被告人の腰にしがみついて来るのをさらにその首を両手で強く締めつけざまその場に仰向けに押し倒して馬乗りになり、一層強く締めつけたが、側に居た恵美が不意に大声で泣き出したので犯行の露見を怖れて、とつさに同女も殺害しようと決意し、同女をその場に引き倒して、その口と鼻を手で何度も強く押えて窒息させた後、人目を憚り、玄関口に倒れている右則子をさらに同室流し台の方に引き摺つていつたが、同女のかぶつていたスカーフが首にまでずり落ちているのを認めるや、その蘇生を怖れて右スカーフをねじる様にしてその首を締めつけさらに右恵美が手足を動かす気配を感じたので、あわてて台所から文化庖丁(刃渡り17.8センチメートル)を持ち出し、六畳間のガスストーブのゴム管を根元から断ち切り、ガスの元栓を開けて室内にガスを流出せしめたところそのとき、右則子の物を吐く様な声を関き、ここに同女にとどめを刺そうと右庖丁で同女の左耳後部及び同下部を突き刺し、よつて程なく右則子及び恵美の両名をその場に窒息死させた上、右六畳間を物色し、整理タンスの抽斗から、右則子の夫石郷岡孝三所有の現金八千円位、郵便貯金通帳一冊、定期郵便貯金証書三枚(額面合計二三万円)、印鑑二個、鍵二個等を強取し、

(二) ついで右強取せる郵便貯金通帳、印鑑等を利用して金員の払い戻しを受けようと考え同日午後二時ころ同町二、三二九番地所在、瀬谷郵便局に赴き、同所において行使の目的で、郵便貯金払い戻し金受領書用紙の住所氏名欄に檀にペンで「瀬谷町二、四四八石郷岡孝三」と記入した上右強取にかかる石郷岡の刻印を押捺し、その他所要事項を記載し、以て石郷岡孝三作成名義の郵便貯金払い戻し金受領書一通を偽造し、さらにその場でこれを真正に成立したもののように装つて、前記郵便貯金通帳ととも同局局員柳沢定吉に対して提出してこれを行使し、その旨同局員らを誤信させ、よつてその場で同局局員金井敏夫から郵便貯金払い戻し金名下に現金四万九千九百円の交付を受けてこれを騙取したものである。<以下略>(昭和四四年四月三〇日横浜地裁第一刑事部)

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